大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和24年(ラ)11号 決定

抗告人

神戸市労働組合連合会

被抗告人

神戸市

右抗告人から神戸市に対する神戸地方裁判所昭和二十四年(ヨ)第十一号仮処分申請事件について同裁判所が昭和二十四年二月十一日与えた申請却下の決定に対し抗告人は抗告を提起したから左のように決定する。

主文

本件抗告はこれを棄却する。

理由

本件抗告理由は、原審は昭和二十三年政令第二百一号によつて公務員の団体交渉権は排除されたから、労働基準法の労働条件対等決定の原則も適用の限りでないと、判断しているけれども、対等決定の原則は個々の労働者対使用者間にもなお適用せらるべきものである。

従つて原決定は重大なあやまりを冒しているのみならず、ひいて違憲の疑をももつものであるというのである。

思うに、命令はその内容から見て、法規命令と行政命令(行政規則)とに区別することができる。ひとしく命令たる形式を有するけれども、法規命令は、法律と同じく、法規としての拘束力を有するものであるが、これに反し、行政命令、すなわち行政規則はその内容上、法規たるの性質を欠き、従つて行政行為たるに過ぎないものである。一般的職務命令、訓令、営造物規則はその例である。して見ると、神戸市の昭和二十四年一月十二日附訓令甲第二号(昭和二十三年十月訓令甲第五七号神戸市職員就業時間、休日及び休暇規程中改正規定)はいわゆる一般的職務命令に属する行政規則であつて、行政行為に外ならない。抗告人は右訓令は無効とするからその効力について判断する。

昭和二十年勅令第五百四十二号(ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件)にもとずく、昭和二十三年政令第二百一号第一項によると、任命によると、雇傭によるとを問わず、国又は地方公共団体の職員の地位にあるものは、国又は地方公共団体に対しては同盟罷業、怠業的行為等の脅威を裏付けとする拘束的性質をおびたいわゆる団体交渉権を有しない。但し、公務員又は団体はこの政令の制限内において、個別的に又は団体的にその代表を通じて苦情意見希望又は不満を表明し、且つこれについて十分な話合をなし、証拠を提出することができるという意味において国又は地方公共団体の当局と交渉する自由を否認されるものではないと定め、職員の団体交渉権と労働条件の対等決定権を否定した。それで労働基準法が今なお地方公務員に対してはその適用を排除されていないとしても、労働条件対等決定の原則を採る同法第二条第一項の規定は地方公務員に対し適用せられる余地がない。又同法第一条第二項は同法の定める労働条件の基準を理由として労働条件を低下させることを禁じておるに過ぎないのであつて、やむを得ない原因を理由としてこれを低下させることまで禁じておるのでないから、我が国焦眉の急務である経済復興のため採られたこと明白な右訓令甲第二号は右条件に牴触するものではない。なお抗告人主張の労働協約はいわゆる団体交渉を前提として成立したものであるから右政令の施行とともにその効力を失つたものといわねばならない。それで右訓令甲第二号は所論のような違法な従つて無効なものでないのは勿論憲法に違反したところもない。故に右訓令の無効なことを前提とする本件申請は仮処分を求めるものであつても、はた又右訓代の執行停止を求めるものであつても失当たるを免れないから、同趣旨の下にこれを却下した原決定は正当であつて本件抗告はその理由がない。

右のとおりであるから民事訴訟法第四百十四条第三百八十四条に則り主張のように決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例